6月3日、最高裁第二小法廷は、印鑑を押す代わりに「花押(かおう)」を記した遺言書の有効性が争われていた事件で、「花押」は印章による押印と同視できず、押印の要件を満たさないとして、遺言書を無効とする判断を示しました。

本事案の遺言は、2003年に85歳で死亡した沖縄県の男性が作成した遺言で、署名の下に押印ではなく、花押を記していたものです。

この遺言により男性所有の土地を受け継いだとする次男が、無効と主張する長男と三男を訴え、1,2審では「花押のほうが押印よりも偽造が困難」として、有効と判断されていました。

しかし、最高裁は「遺言書に押印を必要とする理由は、印を押すことにより重要な文書の作成を完結するという慣行や意識が社会の中にあることがその1つである」が、「花押を書くことで文書の作成を完結するという慣行や意識があるとは認めがたい」とし、遺言書は無効であると判断しました。

なお、今回の判決は、印鑑の代わりに指印を押した遺言書の効力が争われた平成元年2月16日最高裁判決(第一小法廷)を引用しています。

平成元年判決は、「遺言書に押印を必要とする理由は、印を押すことにより重要な文書の作成を完結するという慣行や意識が社会の中にあることがその1つである」という趣旨の指摘をした上で、「指印を印鑑の代わりに用いる慣行が社会一般に存在する」ことを根拠として、遺言書を有効と判断しました。

これに対し、今回の判決は、「花押を印鑑の代わりに使用して文書を完成させるという慣行や意識が社会の中にあるとは言えない」とし、遺言を無効と判断しました。

「花押」とは

名を草書体にくずし、それを極端に形様化した署名。自署の代用。
花押は平安時代から戦国時代には使用されていたが、江戸時代には印鑑の普及により使用が減っていき現在ではほとんど使われていません。
閣議における閣僚署名は、明治以降も花押で行うことが慣習となっています。

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